Dubliners
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J.ジョイスの「ダブリン市民」は日本語訳で読んでいました。一番最初に読んだのは、初めてダブリンを訪れた16年前でした。語学留学で夏の一ヶ月をダブリンで過ごし、そのあと西側を少し旅行し、アイルランドの虜になって帰りました。それが、わたしとアイルランドの腐れ縁の始まりでした。
アイルランドから帰って、すぐにジェームズ・ジョイスの「ダブリン市民」を読んだのですが、そこで書かれるダブリンやダブリンの人々は、アイルランド熱にかかった私には、困惑するものでした。頑張ってよんだものの、結局、何がいいのかさっぱり分からないまま、数年が経ちました。
1996年に再びダブリンに留学。3年間のダブリン生活では、いろいろありました。そして日本に戻ってきたときに、留学中は読む気が起きなかった「ダブリン市民」を読んでみて驚きました。まず、本にでてくる場所や通りが、分かるということ。登場人物がどこから、どこの通りをとおって、あそこにいって・・・というのが、はっきりと思い浮かべることができるのです。
そして、ダブリンの空気が良く分かるという点。鉛色の空、湿っぽい部屋の臭い、のしかかるような冬の暗さ、石畳や建物に響く音・・・そういったものが五感で分かったという嬉しさを、「ダブリン市民」を読んで感じました。
ダブリンが自分の体にどっぷり染み込んでいた私にとって、「ダブリン市民」は特別な本になったのですが、それでもダブリンを知らない人が、なぜ、「ダブリン市民」を愛読するのかが、分かりませんでした。
「ダブリン市民」の原書、Dublinersを買ったのが、スコットランドにきてまもなくのころ。たったの1ポンドで売られていたので、すぐに買いました。
Dublinersは15本の短編で構成されています。そのうちのClay(土くれ)という話がとりわけ好きで、原書を買ってきたときも、まず最初にこの話からよみはじめました。
時間がたっぷりとあったので、分からない単語をオンラインの辞書やGoogleを使って調べながら読みすすめ、思わぬ発見、たとえば主人公のMariaが住み込みで働いている洗濯屋、’Dublin by Lamplight’ laundryの写真を見つけたときは、ワクワクしました。
ほかの話も、このようにていねいに読んでいきたいと思いながらも、なかなか実行に移せないまま、数年が経ってしまいました。毎年、ハロウィーンが近づくたびに、この本を紹介したいと思いながらも、実現せず・・・
なぜハロウィーンにこだわっていたのかというと、ClayがHallow Eveの時期、つまりハロウィーン・パーティーのお話なのです。10月に入って「今年こそ、この話(Clay)をブログに書きたい!)と思い、ようやくDublinersを最初から読み始めました。
第一章のThe Sistersを読んで、あぜんとしてしまいました。何度かこの話は読んでいるのに、私、この話のもつ力というか、真価が全然分かっていなかったことに気付きました。この話だけでなく、Dubliners全部がそうでした。「『ダブリン市民』は何度も読んでいる」と思っていた私、何にも読んでいなかった・・・
こんなにスゴイ本だったなんて・・・やっぱりジェイムズ・ジョイスは天才だ・・・などと私が今さら言うまでもなく、私がようやく天才の作品を、少しだけ、分かるようになってきたというだけ。6年間、ちびちびと続けてきた読書で、少しは読む技術が身についてきたということなのでしょう。
ひとつの話をよむたびに、最後の一行を読み終わって、一瞬、間をおいて、ため息と引き換えに、ふわっと豊穣な余韻に襲われます。なんという幸福!驚きであったり、困惑であったり、せつなさであったり、しみじみとした感情であったり、その余韻は物語によって違うのですが、読んだ後、沈黙せざるをえない力があります。気持ちの切り替えができず、すぐに次の物語に移ることができない、いつまでもその余韻に浸っていたい、そんな力がありました。
どの話も、とても短いのです。Clayなど、せいぜい4,5ページですし、最終章のThe Dead(死せる人々)が一番長いのですが、それでも40ページもない短さです。そして、どの話も、出てくるのは20世紀初頭のダブリンを生きる平凡な人々です。しかし、無駄のない筆致で、登場人物の外見から、性格、暮らしぶり、心理を描写し、読者を物語の世界に引き込んでいき、20世紀初めのダブリンで、読者は、登場人物とともに嘆いたり、うろたえたり、喜んだりするのです。
本全体も巧みに構成されていて、第一章のThe Sistersは、少年が主人公で、季節は夏休み頃。それが章が進むにつれ、少しずつ主人公の年齢が上がっていき、季節も少しずつ移っていくのです。Clayは10章なのですが、主人公のMariaは多分40代後半から50代で、季節はハロウィーンのころ。一番最後のThe Deadはタイトル通り、死がテーマになっていて、季節はクリスマス。
冒頭に、「今ごろの季節に読むのにいいかも」と書いたのですが、考えたら、日本のいまごろの季節と、ダブリンやスコットランドの今ごろの季節って、雰囲気が違いますよね。スコットランドなど、今日はほんとうに、家に引きこもって、暖かい紅茶といっしょに、Dublinersの世界にトリップしたくなるようなお天気です。
The Deadは、少し変わったクリスマスのお話を探している方にいいかもしれません。アイルランドの伝統的なクリスマスの様子が楽しめますよ。ジョン・ヒューストン監督によって映画にもなっています。
上記の映画に出演していたDonal Donnellyによる朗読のDublinersのオーディオ・ブックを図書館でみつけ、借りてきました。寝る前や、本をよむのに疲れているときに、聴いていますが、ちょっと混じるダブリン訛りと、じんわりと、そしてしみじみとしたぬくもりのある朗読で、理由のわからない涙がふっとこみ上げてくることも(笑)。こちらでサンプルが聴けます。
- [2007/11/20 00:10]
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Comments
おお ダブリナーズ
自分もダブリナーズ最初に読んだのは20年近く前だと思います。
その後 10年は読み返してないので 私も michiさんのお話聞いてて読み返したくなってしまいました。
英語本も夫のがあるので挑戦してみようかな・・・。
「ザ・デッド」も5回くらいは観てますが、良いですよね。
ダブリナーズの朗読ブックですか、なんか それだけで じ〜〜んとしちゃいます。
先日 新宿のダブリナーズにて いわゆるアイリッシュライターのポスターがはっていて(そうそうたる大作家達)
「この人の生家が近所で ものすごい酒飲み伝説の持ち主で いまだに庭からビール瓶がでてくるらしい」(都市伝説の一種か?真実か?笑)って夫が言っていた作家がいて michiさんだったらご存知かな?元IRAで小説もIRAモノだった方のようですが。名前失念。
はい、私も・・・
同じく「20年前に読みました」チームです。(笑)
最初に読んだのは大学の英語の読本にDublinersのEvelineが出ていたからです。当時は私もそのEvelineと同じような年だったんですけど、バブル期の東京で女子大生をやっていた私も何だかその独特の世界に引き込まれて行きましたねえ。
Dublinersを読むときは、
http://www.amazon.co.uk/Notes-James-Joyces-Dubliners-Advanced/dp/0582329116/ref=sr_1_19?ie=UTF8&s=books&qid=1195549682&sr=8-19
みたいな注釈書と読み並べていくのも結構楽しいんじゃないかと思いました。ジョイスは楽しいですよね、うん。
みかぼんさん
10年ぶりのダブリナーズ、色々感じるものがあるかもしれませんね。この本、経験を重ねるほど、いろんな顔がみえてくるように思います。ぜひ、また読んでみてください。The Deadは一度しかみていなくて、それも学生のころだったから、さっぱり良さが分からなかったのです。今なら、もっといろんなことを感じるんだろうなと思います。
その作家、いっしゅんRonan Bennettかなと思ったのですが、この人は北アイルランドの出身で、比較的若いので、多分違うなーと思い、しらべてみたのですが、Brendan Behanという方かな?ウソか真かのその伝説、いいですな〜(笑)
Tomokoさん
私も最初に読んだ頃はEvelineだったのに、だんだんMariaに近くなっているのが、切ない・・・(笑)Evelineは、インパクトのある話ですよね。「えぇっ??」という終り方で・・・
思ったほど、英語は難しくはなかったかなーと思ったのですが(J.ジョイスの作品の中では、一番読みやすいかもしれませんね)それでも、ところどころ分からないところがあったので、こういう注釈書があると、もっと作品を楽しめるでしょうね。ご紹介どうもありがとうございました。ぜひ手に入れたいと思います。
Dubliners
サンプルを聴きながら、Amazonの中味検索で読みました。温かなやわらかい声でとてもわかりやすかったです。
…そして、ダブリンの空気が良く分かるという点。鉛色の空、湿っぽい部屋の臭い、のしかかるような冬の暗さ、石畳や建物に響く音・・・そういったものが五感で分かったという嬉しさを、「ダブリン市民」を読んで感じました。…この言葉にとても惹かれました。読んでみたいと思います。
紹介してくださってありがとう。
ビンゴ!!
そう、その方です。さすがmichiさん!
なんでもTの家から一分半しか離れてなかったようです。
ギネスから「ギネスのキャッチフレーズを考えて欲しい」と言われ 大量のギネスが送られてきて飲んだくれていたとか。
結局全然浮かばず 最後に苦し紛れに「GUINNESS makes you drink」ってのを思いついたそうですが(まんまっすね) ボツにされたそうで。
「GUINNESS is good for you」ってのが代わりに使われたようですが・・笑。
酔っ払い方も尋常でなかったようで、その上IRA絡みで何度も刑務所に入ったり、刑務所の中でタバコを巻く紙がなくってバイブルでタバコを巻いた唯一の人間だったとか、色々逸話があるようです。
アイルランド男子好きする作家なのかな・・笑
話し振ると すげ〜嬉しそうに話すTでした 爆
tomokoさん
おおお 20年前組っすね!笑
英語でがんばって読んでみようかな〜〜。
michiさん、御無沙汰してます。
毎回michiさんのレビューを読んで思うのですが、「本当に上手だな〜。読んでみたい!って気にさせる文章だな」と。
今は毎日バタバタと過ぎ去ってゆき、本をじっくり読む、時間もだけど、心の余裕もなくて・・・・。
でも、いつか落ち着いて自分の時間をもてるようになったら、michiさんの紹介して下さった本の中から、読んでみたいな〜と思っているので、これからも楽しみに読ませて頂きますね。
スコットランドは寒いのだろうな・・・
。こちらも寒くなってきましたよ。
ふ〜むぅ〜
どんな本なんだろ?
ぜんぜん知らなかったから、読んでみたいです。
でも多分、そこに住んでみないとわからないんだろうなぁ。
一度いったことはあるんですけどね。
ブラックプディング食べましたよ!
ところでダブリン市民って、ダブリナーって言うんですね〜
知らなかった!
覚えやすくていいですね。
その人・・・
みかぼんさん
Brendan Behanって大酒飲みだとは聞いたことがあるのですが、Tさんのご近所さんだったんですね。
でも私の脳内では何故か「詩を書いているFather Jack」のイメージです。
バイブルで葉巻・・・。(笑)
michi
まりこさん
朗読のサンプルを聴いてくださったんですね。いいですよね、しみじみとしたかんじで。。。もし機会があったら、映画のほうもレンタルビデオ屋さんにあると思うので、ご覧になってみてください。
Aamazon、中味をちょっとみることができるんですね。しかも、どうも注釈があるようで・・・私が1ポンドで買ったものにはなかったんですよ〜。やっぱり注釈書が欲しくなってきました。
みかぼんさん
あはは、じつはGoogleで、Irish writer IRAで検索したら、すぐに出てきたんですよ(笑)。それにしてもスゴイそしてとってもアイリッシュな武勇伝の持ち主ですね。なんか、アイルランド男がひそかに憧れそうなタイプかもしれません。うちの夫、知ってるのかな?とりあえず、本棚にはなさそうですが、まちがいなく、好きそうなタイプです(笑)。
'Guiness is good for you'は、ポスターでみかけますよね。なんか嬉しくなってきちゃうなー、こういう「アイリッシュって・・・」ていう話(笑)。
mitsuさん
長崎での新生活はいかがですか?やっぱり九州は落ち着かれるでしょうか?ふと気が付いたら、おひめさま、もう6ヶ月なんですよね。早いな〜。何が好きなのかな?毎日が、本当にいそがしくて、目が回ることと思います。そしてこれから、ますます目が離せなくなって、なかなかゆっくりとした時間が持てないかもしれませんが、おひめさまはあっという間に大きくなってしまいますから、おひめさまとの一緒の時間、大切に過ごしていってくださいね。
こっちは、「いかにも」なスコットランドのお天気になりました〜。さむいっ!
はるこさん
そう、Dublin→Dublinerになるんですよね。ちなみに私がすんでるDundeeはDundonianになるんです。ダンドニアン。あんまり小説のタイトルにはならないかなー。
おぉ、ダブリンで、ブラックプディング食べましたか?私は、もう何年も口にしてませんねぇ。ソーダ-ブレッドが食べたいなぁ〜
tomokoさん
ごぞんじでしたか、みかぼんさんのご主人の実家のご近所さん。
「詩を書いているFather Jack」
こりゃ、一度読んでみなくては(笑)
Drink! Arse! Girl!とか言いながら、書いてる姿を想像しました〜。
「ダブリン市民」はもちろん、「ユリシリーズ」も1ページ読んだだけですぐにやめた私です。が、michiさんの文章を読んで、ダブリンに行ったことを思い出すと、読んでみたくなりますね!
いつも、michiさんの読書のしかたをうらやましいなあーと思って読んでいます。まるで私もどっぷり堪能したかのような錯覚に陥るのです。
また、楽しみにしています!
そうなんです 笑
>tomokoさん
>Tさんのご近所さんだったんですね
そうなんですよ、もう モロ下町育ち 笑。Tくんお里が知れるってやつです。
夫が子供だった頃は 家賃が数千円の世界だったようですよ。
大家に数万で(数十万でもないのさ)家を買い取らないかって話しがきてお父さん 断ったってさ 笑(のちに夫の妹が高くなる直前に買い取ったらしいが)
今は 考えられないくらいに高くなったようですが。
「ファーザージャック」!!爆
由緒正しいアイリッシュの一つの型ですね〜爆。
バイブル燃やすってのは かなりタブーな行為だったでしょうな 汗。
>michiさん
そうそう 武勇伝だよね 笑。
いまではもうさすがにアイルランドでもそんな豪傑はいないのだろうさね。
だから語り草になるんだろうね。
IRA、刑務所、大酒のみ。豪放磊落っての?男子は好っきやね〜〜笑。
ロマンというか憧れるんだろうね。
話としては面白いけど 周りの人はけっこう大変だったろうね けけけ爆
MariaIcuietta さん
私も「ユリシーズ」は最初の3ページで挫折してるのです。いつかは、たぶん来年こそ、挑戦したい作品なのですが・・・難しいよね。そうそう、MariaIcuietta さん、去年、ダブリンにいってるものね。そのときのことを思い出しながら、Dubliners、どうでしょう?
スイスのお天気はどう?こっちは、月曜から、いかにも〜なスコットランドのお天気です。
みかぼんさん
うちの夫のお里も、まあ、自慢できるようなところじゃないですよ(笑)。昔のダブリンはそんなかんじだったかもしれませんね。今じゃ、高騰して、家を買うのも大変かもしれませんが。
うんうん、Father JackやBrendan Behanみたいな人、今のダブリンでは少なくなってきてるかもなぁ。Dublinersみたいな雰囲気も、薄れつつあるだろうし・・・
ジェームズ・ジョイスの「ダブリン市民」、恥ずかしながら読んだことがありません。でもmichiさんの文章を読んでとっても読みたくなりました。たぶん一回読むだけでは、良さが分からないかもしれないけれど…(*^^*)。ちょうど今読んでいる本のなかにも「Dubliners」が出てきて、作家がアイルランドの方なので、やっぱりアイルランドでは必須の名作なんだなあ、なんて、妙に感動したりして読んでいます。それから、今回の記事でますますアイルランドに行ってみたくなりました! いつも素晴らしい本を紹介してくださってmichiさんには感謝いっぱいです♪
nikoさん
メッセージどうもありがとうございます。nikoさんもいつも素晴らしい本を紹介してくださっていて、楽しく拝見しています。今、読んでいらっしゃるアイルランド作家ってだれでしょう?読み終えられて、ブログに感想をアップされるのが待ち遠しいです。
アイルランドは小さい国ですが、たくさんの作家を輩出しているんですよね。とくにジョイスの作品は、アイルランドだけでなく、世界中の作家に影響を与えているのではないかなと思います。じつは、オンラインでも読めるんですよ。James Joyce Dublinersなどで検索すると、テキストが読めます。でもPCの画面で読むのは、目が疲れますよね。。
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